エスター(ゴミ考察のサンプルその1)

作品考察
引用:映画.com

引用:映画.com

  • 目的→生存、寄生
  • 捨てたもの→他人、良心
  • 捨てられなかったもの→怒り

あらすじ

エスターは珍しい病気にかかり、外見が少女のままで止まっていた。養子という形でいくつもの家族に潜り込み、父親を懐柔する。それに失敗すると、家ごと家族を焼き払い、孤児院に舞い戻る。そんなサイクルの中で、主人公家族が彼女を引き取る。当初は家族に打ち解けようとしている養子に見えていたが、徐々におかしな行動を見せ始める。ファックという言葉を簡単に使う、ピアノを弾けないフリをする、級友に大怪我を負わせる。すべて、父親を不信に陥らせ、懐柔するための彼女の計画だった。シスター殺害の証拠を掴まれそうになり、息子のを殺害しようとする。一命は取り止め、集中治療室に搬送される彼。とどめを刺そうとしたエスターに、母親は掴みかかり、拘束される。エスターは家に戻った父親を誘惑しようとするが失敗し、彼を殺害。家族を皆殺しにしようとする。母親はエスターの正体を知り、自宅に戻る。夫の死を嘆きながらも、娘のマックスを守るため血みどろの格闘を繰り広げ、エスターは池の中に沈んでいきラストを迎える。

フィールド

家族

スリラー。円満な家族と思いきや、父親の浮気、母親のアルコール依存症既往歴等、悩みの種を抱えている。少しづつその綻びの糸を引っ張り出す。家族離散の危機にまで迫る。家族は人生において非常に強い意味を持つが、構造はひ弱であるという特徴を僕たちは知っている。

家族は反響し合う。悪くなればどこまでも悪くなる。単色の組織。多彩な色を持たない。混ざらなければならない。だからこそ、調和の取れない色が混ざると、途端に灰色にくすむ。どんな組織にも異端者はいるが、家庭に異端者は生存できない。家庭は、ビジネスライクに割り切れないからこそ、危うい。その危うさを、この異端者の介入によって表している。

潜入ミッション系の逆バージョン。潜入される側の視点で進む。メタルギアソリッドの視点が変わったような状況が作られる。ハラハラしっぱなし。エスターは何を目的としているのかわからない。時折見せる異常な行動の故も見えない。最後にピッタリとパズルが埋まる。反響し合う人間と環境。

寄生虫

寄生虫は、宿主の栄養を盗みながら、なおかつ死に至らせないという二律背反の中で生きている。むしろ宿主に利益をもたらす寄生虫すらいる。彼女もそうであれば良かったが、そうはならない。父親を取り込もうとし、家族を壊滅させる。エスターは中間宿主を終宿主へと変化させるために、男性の性愛を利用する。が、養子の誘惑に乗らない、まともな男性を選んでしまったことが彼女の失敗。

ここで思うのは、なぜ父親を懐柔する必要があったか?だ。別に、家族の一員としてそのまま生きていけば、それで円満だったろうと思う。でも、彼女はそうしなかった。家族間を疑惑の煙幕で覆い、相互不審に陥らせる。

それは、彼女の性格のせいだ。彼女は、気に入らないことがあると、必要以上の攻撃をしてしまう。自分をからかった級友を遊具から突き落とし、大怪我をさせていた。その過剰な攻撃性を隠すには、明らかにダメなことを、容認してもらう必要がある。自分を手放しに容認し、すべてを許す環境を作る。それは、家庭という組織ではうまくいかない。

環境を、家族ではなく一人の男にする必要があった。彼女は、一人の男の中の、歪んだ性愛の中だけで生息できる生き物だった。いや、そうなった。人間の歪みの何が問題かというと、歪みの中でしか生きていけなくなる点だ。

己の欠点をすべて容認してくれる環境、なんとも不自然な環境だ。ますます欠点は発展と進化を続ける。他の環境では生きていけない。エスターは性愛の中を渡り歩いてきた。ファックという言葉にも、あれほど冷たい眼差し持っていたのも納得できる。

風俗、パパ活、売春。男性の性愛、それも歪んだ性愛は、一つの世界というものを作り上げている。エスターはその世界に住民票を持つ一人だと言える。

キャラクターの特徴

エスターは元々持っていない。持たざる者。命以外何を失っても良いと思っている。そこには他人の命も含まれる。なら。他人の命は所有物か?所有という手続きを踏まなければ、捨てるも何もない。

人を蘇生する能力を持つ。

彼女にとって殺人は存在しない。彼女にとって、そもそも全ての他人は死んでいる。死体がそこらじゅうを歩き回っている。そこで、目の前の人間に利益を認めた瞬間に、息を吹き返す。生存という大きな目的の前に、ありとあらゆる全ての物や人が道具化し、愛が消えている。彼女はリビングデッドの中を生きる人間だ。彼女にとって分娩室は、死体を生産する処刑場で、父親やシスターの倫理感は、己を滅ぼす兵器に見えていた。

彼女にとって人を壊すことは、外見と内情を一致させる行為だったのだろう。元々死んでいるのだから、動いて喋るのはおかしいということだ。歩く死体は、気味が悪い。

未完のサイコ

彼女は未完成のサイコ。うまくいかないと怒り狂う。カウンセリング後にトイレで暴れ、大声で叫ぶ。映画で描かれるサイコは基本的にはみんな楽しんでいる。愉悦のうちにいて、なおかつ余裕を崩さない。でも彼女は違う。数々の映画で描かれたサイコが神のようであるのに比べて、彼女は寄生虫。弱者としてのサイコ。それがもう一つの特徴。

目立たないように、自分の行いが透明化する様に動く。丹念にアリバイを作り続けた。それがこの映画の魅力にも繋がっている。サイコは自己顕示欲が強い。バレたがる。人に見せたがる。彼女は違う。秘匿が美徳。その彼女の信条が謎を生み、素晴らしいスリラーを演出している。

エスターが失っても構わなかった物

彼女は、他人が大切なものを失うことを厭わない。

人を殺すことが出来るということは、いつでも他人の命を捨てることが出来るとも言い換えられる。つまり人は、誰の命でも所有できるということなんだろうか。殺人の工程としては、盗む、所有する、捨てる、だ。殺人は窃盗に分類できる。殺人は窃盗の最上位にあるものだ。そして、殺人は所有と廃棄を同時に成立させる手段でもある。

サイコパスが失っても構わないと考えているのは他人の所有物だ。

所有していないものを失っても構わない。所有などしていない。自分由来以外のものを自分のものだと思い込む。つまり、他人が何かを失うことでしか得たいものを得られない。そこが反社会的人格障害と呼ばれる人種の悲しみだ。

失っても構わないもの、つまりゴミのことを考えると、愛のことを考えざるを得ない。最終地点という同じ属性を持ちながら、対極的な何かを感じる。対極を感じながら、近しい何かも感じる。おそらく、家族愛や親子愛なんかの「愛」を他の概念と違えている特徴は、得ることに対して、誰かが何も失わない点にある。対価を必要としない。

誰にとっても役に立たない。誰にとっても役に立つ。物の行き着く地点、ゴミ。人間の行き着く地点、愛。

エスターが捨てられなかった物

さあ、彼女が失えなかったものは何か。怒り、憤り、憎しみ。この辺りだろうか。警察が迫る中、執拗に家族の命を狙う。また精神科病棟に連れ戻されるかもしれない。やってきたことが発覚すれば、死刑にすらなりうる。でも、彼女は虐殺を諦めない。

彼女は怒っていた。うまくいかないことや、自分の計画を頓挫させられたことに。怒りや憎しみ。これは、熱のある激情ではなく、冷徹な平均化の精神だ。自分を不幸にしたのだから、お前も不幸でないとおかしいという、物事を均一にする思想だ。割とバランス派。リベラル思考だ。根本は自分だけがなぜ、お前はそうでないのになぜ、だ。一口に言えば不公平だ。

ただ異常者だと言い切る前に、彼女の情状を酌量してみると、成長が止まる病にかかっていることや、精神科病棟に隔離されていたことなど考慮すべき点はある。彼女の心は不平等への怒りに蝕まれていたろうと想像できる。なぜ自分だけが。彼女は偽ることにした。弱者を偽れば、受け取れるものが増える。生活保護の不正受給に似た感覚を持つ。基本的に人が何かを偽る場合、弱者的である外見(生活、服装、表情)を強調し、武器にする。彼女は違う。そもそも弱者的である外見に合わせて、内情を偽る。見栄を張るという言葉の真逆。彼女の奇異な外見は、最大の弊害であり、最大の武器でもあった。

彼女は何もしなくても偽りだった。ただ生きているだけで偽りだった。彼女にとって己を少女に偽るということは、周りからの目において正常であることだった。少女を演じていると、彼女は正当になれた。嘘をつくと、本音になる。演じると、舞台を降りる。そんな、妙な人生を歩んだわけだ。

人生自体が演技、模倣。筋書きのある台詞。彼女にとって社会に関わる唯一の方法が「嘘」だった。彼女は流暢に英語を話すが、それは第一言語ではない。彼女の第一言語、母国語は、「嘘」だ。嘘という言語を覚えなければ、彼女はいつまでも異邦人であり続けた。

そう考えると捨てていたものは本音や本心か。捨てざるを得なかった。歳を経れば経るほど、外見と内容は離反していく。ますます演技は熟成し、嘘は膨らんだ。虚構の船に乗り、虚構の港を出、虚構の海をさすらった。死ぬまで続く漂流から抜け出すために、自分の生まれた大陸を発見する必要があった。その大陸に上陸する手段が、怒りだったんだろうか。

偽らざる、心から湧き出た怒り。怒りは、彼女にとって自身の本心と、生まれ持った攻撃性をさらけ出せる唯一の方法だった。彼女は公平を求めた。均一を求めた。一致を求めた。人を殺すのも怒りも、外見と内容を一致させる方法だった。ナイフを振るわせ、引き金を引かせる怒りという本心は、例え自身を破滅させるものだったとしても、彼女にとって、かけがえのないものだったに違いない。

62点

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