Vフォーヴェンデッタ 2

作品考察

登場人物たちは迷う。主人公も、Vも、刑事も。権力者以外は、常に迷いのうちにある。権力者たちに方向転換はない。サトラー議長、クリーディ、こうだと決めたら、最後まで突き進む。変わらないこと、妥協しないことだけが強さだと信じている。自分を疑うという強さを持っていない。弱いものは、指摘に耐えられない。弱いものは、転換に耐えられない。変わらない何か、不変の己という幻想に、肩入れしてしまっている。

主人公は、Vを裏切る。信頼しようとしながら、何度も迷い、それでも国家の方を、過去の生活の方を信頼しようとする。自分を救ったテロリストと、家族を奪った国家の間で揺らぐ。

主人公の弟は、国家による陰謀で命を落としていた。国は、人体実験により完成した生物兵器を、テロリズムに見せかけ、小学校、水道場にばら撒く。そこを、現政権が特効薬を開発し、国を救ったように見せかけた。わかりやすいマッチポンプだ。両親はそれを機に活動家へと変わった。そして、両親ともに、彼女の前から姿を消す。家族を奪われた悲しみとともに、国を疑うという姿勢を封じ込めてしまっていた。

国は絶対善であり、何かを破壊するものは、反逆するものは絶対悪であるという決めつけによって、翻弄される。彼女を苦しめたのは、彼女だった。彼女を引き回したのは、彼女自身だった。目の前の、胡散臭い仮面を被った男を信用できなかった。ただ、彼女は知っていた。国家もまた、仮面を被っていること。そして、仮面の下の冷酷な顔を、その目で見たことがあったこと。迫り来る二つの仮面の間に、彼女は立ち尽くす。

一人、とても象徴的な人物が出てくる。人の道を踏み外した聖職者だ。神に仕えながら、子供達を使い、性的欲望を満たし続けているらしい。主人公はその「供物」として、潜入することをVに提案され、彼のもとを訪れる。

割と最近、ニュースで見た。カトリック教会の児童に対する性的虐待事件。有り難がられ、守られ、信頼された、聖職者というもの。疑う余地があまりに少ない。だからこそ、そこは悪事の温床になりうる。驚くべきことじゃない。聖職者がなぜ、なんてことは思わない。

聖職者だろうが、警官だろうが、結局はただの人間だ。

聖職者という存在がこの世にあるんじゃない。警官という存在が、この世にいるんじゃない。そういう肩書きを持った、人間がそこにいるだけだ。

そこに、どんな人間がいるかだ。

ただ、その装いに、正統性に、積み上げられた信頼に、人は容易に騙される。この完璧な仮面に、人は勝てない。

これは、知性のバグだ。聖職者は善である。だから、目の前の聖職者は善である。この考え方、帰納法的思考は、人間が自分の生命を守るのに、ものすごく高い効力を持っている。いままで経験してきた、危険なこと、もの、人、その特徴をサンプルとして収集して、目の前のものを判断する。僕たちが毎日火傷しなくて済むのは、ヤカンから立ち昇る蒸気は熱いという経験があるからだ。

ただ、この思考法にも穴はある。それは、必ずしもそうではないということ。そして、この必ずしも〜ない、に、重要な場面で行き当たれば、極めて重大なミスを犯す可能性がある。大きな大きな、チャンスを逃すことがある。むしろ、経験の多い大人こそ、この思考の落とし穴に、真っ逆さまに落ちていきうる。作り上げてきた経験に、寝首をかかれることがある。これは、僕たちの責任とは、断言できない。

「そうでない場合もあるだろう」経験へのプライドから、僕たちはこれを疑えない。加速の時代のせいで、それをやってる時間はない。僕は、これを疑える鈍さ、不器用さを捨てない。周りが疾走していく中、立ち止まることを、恐れない。

目の前の人間は、今まで会った人間の枠の内側に、必ずしも全身すっぽりと、立っているわけではない。また、全く新しい人と出会ったんだ。これから訪れる日が、自分の生きてきた年月の中にあるわけではない。

目の前のものは、常にどこかが新しい。

終盤でも、主人公は揺らぐ。地面に倒れてしまいそうなほどに揺らぐ。信用し始めていたVによって、精神の解放のためとはいえ、拷問を受けていたと知ったから。彼女は不信に陥る。もうだめだ。というところまで行く。でも、それで終わりじゃない。

その向こう側に、道を見出す。

裏切られ、傷つき、何者も、信用できない。そんな苦しい日々が訪れることがある。ただ、それは行き止まりじゃない。ちゃんとその先が用意されている。何も信じられない不信というのは、自分を信じるという、最大のギフトを手にするための、開封作業だ。自分への信頼、その不可欠なプロセスとして、人間不信は存在する。

己の罪を疑わない、狂気の司祭は、一歩一歩上り詰めた13階段の先で、生き絶える。Vの怒りによって。

怒りと憎悪に生きたVも、また揺らぐ。本当は復讐のために生き抜くと決めていた。が、主人公と出会った。復讐の道を行く途中で、彼女に出会った。

かつての怨敵を始末していく中、省みる悪人が登場する。彼を、Vという存在にするための、夥しい犠牲者を出したバイオテロを引き起こすための、非常に重要な役割を担った生物学者。ボイスオブロンドンとして、スポークスマンを務めながら、私腹を肥やす男、司祭の皮を被り、子供達を襲う男、そんな彼らと違い、元生物学者の女性は、自分の行為を恐れ、苦しみ、報いを受けようとする。これまでの、自分を何ら疑わない悪人たちと違う。罪の意識を持った敵。Vは、主人公との出会いも相まって、葛藤する。

憎悪を持った人間が、いくことのできる道は二つ。復讐者の道か、赦しの道か。Vは、復讐者の道を選んだ。道の終わりまで、彼は突き進むはずだった。ただ、その道の途中で彼女に出会った。彼女を、「これ以上愛せないというほどに」愛してしまった。彼は、もう一つの道を行くことにした。何かを残すこと。何かを託すこと。古い人間は去り、新しい何かを生み出すこと。そのための、腐葉土になること。宿敵を葬り、彼らと共に去ることにした。彼は死ぬことにした。なぜか。恋をしたからだ。

物語の流れでは、主人公は聖職者の元を流れ、会社の上司に匿われる。サドラー議長を面白おかしく風刺し、それを主人公と笑う。彼の思惑とは裏腹に、彼は粛清されてしまう。上司の家に殺到する特殊部隊から隠れ、過去のトラウマを再現するかのような場面に遭遇する。窓から飛び降り、逃げ出そうとするが、結局捕まってしまう。

独房に囚われ、交換条件を出される。Vの情報を渡せば、自由の身にすると、提案される。彼女は黙秘を続け、拷問、尋問を受ける。それでも彼女は、口を割らない。長く続いた独房生活の中で、ふと壁の一部に空いている、穴を発見する。

自分と同じように、政府に囚われ、死んでいった女性の手紙が、そこにはあった。彼女は、その手紙に、心を震わせる。自分から、何もかもが途絶えたと思っていたところに、それでも何かと繋がっていることがわかる。全てをなくし、住所を無くした人間が、宛名のない手紙を受け取る。彼女は理念を受け継いだ。最後の最後に、選択を迫られる。Vの情報を少しでも渡すか、さもなくば、倉庫の裏で銃殺されるか。彼女はNOと言った。

自分の道を見つけた。幸せな日々が、彼らの提案の向こうにあるかもしれない。平穏な日々が、裏切りを対価に、手に入るかもしれない。それでも彼女は、NOと言った。その、非合理的で、不可解な道を行くことに決めた。

納得のいく首輪を見つけた!

つづく

コメント

  1. You could certainly see your expertise in the work you write. The world hopes for even more passionate writers like you who are not afraid to say how they believe. Always go after your heart.

  2. Irish Parilla より:

    Wow, amazing blog layout! How long have you been blogging for? you make blogging look easy. The overall look of your site is magnificent, let alone the content!

  3. Chet Guarini より:

    I truly appreciate this post.Really looking forward to read more. Much obliged.

  4. myinforms より:

    Pretty section of content. I just stumbled upon your web site and in accession capital to assert that I get in fact enjoyed account your blog posts. Any way I will be subscribing to your feeds and even I achievement you access consistently rapidly.|

  5. CBD Oil UK より:

    Wow, wonderful weblog structure! How long have you been running a blog for? you made blogging look easy. The overall glance of your website is magnificent, let alone the content material!

  6. That is a very good tip particularly to those new to the blogosphere. Simple but very accurate information… Thank you for sharing this one. A must read article!|

  7. visit website より:

    Its such as you read my thoughts! You seem to grasp so much about this, like you wrote the e book in it or something. I think that you simply could do with some to pressure the message house a little bit, however instead of that, this is wonderful blog. A fantastic read. I’ll definitely be back.|

  8. excellent

  9. best cbd oil より:

    Good post. I learn something new and challenging on websites I stumbleupon everyday. It’s always useful to read through articles from other authors and use something from other sites. |

  10. best cbd oil より:

    amazing artile

  11. buy cbd oil より:

    I think the admin of this web site is genuinely working hard for his web site, since here every stuff is quality based data.|

タイトルとURLをコピーしました